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36.ワルツ・フォー・デビーの勧め (平成18年5月吉日)
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とりあえず人気の高いものは避けるアマノジャクな私の性格です。周りが洋楽やフォークに夢中になっていると演歌を唱うという具合です。ジャズを聴き始めたときも、いわゆる名盤の類いはあえて避けていました。しかし、そういう偏屈は良くないと反省することもあります。ある時期に、人気のレコードを端から聴いたことがありました。その中でビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビー」は特別の響きを持っていたのでございます。

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最初の印象は、シャーシャー、ザーザーとやたらドラムの音が気になり、ピアノは耳に入って来ません。しだいにベースの響きが印象的に感じられるようになりました。それに、ライブ録音のせいで、皿とフォークのあたる音とか話し声が気になりだします。何度もくり返し聴くうちに、端正なピアノのメロディーが心地よく聞こえるようになりました。少しずつ馴染むうちに、これはただならぬ「ジャズ」だと気がついたのです。1961年、ニューヨークの「ビレッジ・バンガード」での臨場感あふれる録音でございます。

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観客は必ずしも音楽に聴き入っている訳ではありません。終わったときに、わずかにパチパチと拍手があります。そんな中で、トリオは激しい演奏をくりひろげます。全体の印象があまりにナイーブなので初めは気がつきません。ジャケットで見る影(横顔)のイメージは本当に象徴的です。澄んだ響きはドラムのモチアン。ソロを取る革新的なベースのラファエロ。そして、姪っ子のために「ワルツ・フォー・デビー」を作ったピアノのビル・エヴァンス。こんな演奏が、日常のひとこまとして繰り返されるニューヨークはなんて凄いのでございましょう。

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私も若いときに一度、ニューヨークに滞在してライブハウスに通ったことがあります。ですから、この録音のすばらしさ、ジャズの奥深さが羨ましく感じられるのでございます。演奏家は客に媚びることなく、客はさほど演奏に期待するのでなく、静かな戦いが繰り広げられている。目を閉じて聴いていると、生々しいシーンとして浮かんできます。もしも、自分がそんな場面に遭遇していたらと考えずにはおれません。

掌中のアート
午後5時55分
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