今では観なくなった紅白歌合戦。子供の頃は楽しみでございました。とりわけ、クレージーキャッツの登場には、ワクワクしていました。なにがそれほど面白かったのか、今から考えるとギャグもさり気ないものだったように思います。昨年に植木等が亡くなって、再びその活動が注目されたところです。目立っていた植木より、私は谷啓がずっと好きでした。私にとって最高のギャグは「ガチョーン」で、おそらくそれを超えるものはないでしょう。
ハナ肇をリーダーに、クレージーキャッツが動き出したのは、私が生まれるわずか半月前のことです。谷啓は翌年の56年、植木等は57年に参入しました。忘れてならないのは、メンバーのほとんどが、ジャズミュージシャンとしては相当のレベルであることです。谷啓は、現在でもトロンボーン奏者として音楽活動を続けているくらいです。そういう背景があって、くりだす笑いは息の詰まるようなものでなく、品の良さをかもしだします。むりやり笑わせるのではなく、つい笑ってしまう「引きのギャグ」なのでございます。
毎年のように新しいギャグが一世を風靡し、そして消えてゆきます。それも良いのですが、少し悲しくもあります。「押してもだめなら引いてみな」のように、魅力とは押し出すだけでなく、引き込むパワーとも言えます。自分が自分がというこの時代だからこそ、クレージーキャッツの笑い、谷啓の魅力に注目してみましょう。道(タオ)の大極図が示すように「+」と「−」のバランスこそが、この世に平安を導くのでございます。